特別支援学級の担当教員、ならびに特別な支援を要する児童生徒を受け持つ通常学級の教員において、「個別の教育支援計画」および「個別の指導計画」の策定業務は教育上とても重要である一方、多大な時間的・精神的リソースを要する事務作業(※1)となっています。
児童生徒の実態を把握した上で、それを行政要求や保護者の理解に耐えうる客観的・専門的な公的文書として表現するプロセスは、教員の超過労働の要因となっています。
本稿では、情報セキュリティ的配慮を前提とし、生成AI(大規模言語モデル等)を「公用文作成のためのドラフト(下書き)生成ツール」として活用し、文章作成業務を合理化する手法を解説します。
1. 支援計画策定における業務負荷の要因
文章作成時の主なボトルネックとして以下の要因が挙げられます。
- 公用文としての体裁調整: 学校・自治体のフォーマットに準拠し、「〜の傾向が見受けられる」「〜の支援を要する」といった文末表現・専門用語への変換に時間を要します。
- 語彙とリフレーミングの要求: 「落ち着きがない」「感情的になる」といった直接的な事象を、保護者を含めた関係各所へ向けて、発達的観点や前向きな支援策を前提とした表現(リフレーミング)に言い換える高度な語彙力が求められます。
- ゼロベースからの思考負荷: 過去の記述を流用するだけでは現在進行形の実態を正確に反映できず、一方ですべてを白紙から構築することは初動の思考負荷(負担)を増大させます。
同じ課題を実際にどう減らしたかは、次のページで説明しています。
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2. 生成AIによる「ドラフト自動生成」のプロセス
※【重要】 大前提として、生成AIに対して児童生徒の個人情報(氏名、生年月日、特定の属性など)を入力することは厳禁です。 匿名化された「一般事例」に対する文章生成として利用します(※2)。
ステップ1:実態の箇条書き抽出
教員は、日々の特記事項から客観的な事実(要素)のみをリストアップします。
- 例:「授業中、45分着席が困難。算数が苦手。昆虫の図鑑は集中して見る。他者とのトラブル時に手が出てしまうことがある。」
ステップ2:AIへのプロンプト(要件定義)入力
抽出した要素を、以下のような「指示文(プロンプト)」に組み込み、AIへ送信します。
【プロンプトの例】
あなたは日本の教育機関における経験豊富な特別支援教育の専門家です。
以下の「児童の実態要素」に基づき、個別の教育支援計画に記載するための「現状の課題」および「具体的な支援策(短期目標)」のドラフト案を作成してください。
出力は、保護者が読んで安心感を抱き、かつ教員が実行可能な客観的・専門的な公用文のトーンとしてください。なお、児童の呼称は「Aさん」で統一してください。[児童の実態要素]
・授業中、45分着席が困難。
・算数が苦手。
・昆虫の図鑑は集中して見る。
・他者とのトラブル時(物を取られる等)に手が出てしまうことがある。
ステップ3:ドラフトの受領と編集
AIは数秒で以下のようなドラフトを出力します。
【AIの出力例】
現状の実態と課題:
Aさんは、自身の興味・関心が高い特定の分野(昆虫や自然等)に対して高い集中力を発揮し、意欲的に探究する力を持っています。一方で、算数学習や45分間継続して着席を維持することについては、現在課題が見られます。また、対人関係において、自身の意図しない状況(持ち物を取られる等)が発生した際、言語で要求を伝える前に衝動的な行動(手が出る等)が生じることがあります。具体的な支援策(短期目標):
- 環境調整とモチベーション管理:算数学習等においては、Aさんの強い関心分野(昆虫等)を取り入れた教材を活用して意欲の向上を図ります。また、15分等の短時間サイクルでリフレッシュの時間を設け、段階的に着席時間を伸長するよう支援します。
- コミュニケーション手段の獲得支援:対人トラブルが予見される場面において、教員が事前に「貸してと伝えてみよう」と言語モデルを提示します。衝動的な行動の代替となるコミュニケーションスキル(絵カードや言葉での表出)の定着を支援します。
3. 当該アプローチがもたらす業務改善効果
- 「白紙状態」からの作業開始の回避:
教員は「ドラフト(70〜80点程度の完成度)に対し、対象児童の個別具体的な事情を盛り込んで加筆修正する」という編集作業に注力可能となり、文書作成に要する時間は、手作業で約2時間かかるところをAIの下書きを直す形にすると約1時間になり、年間15人を担当する教員で計算すると年間およそ15時間の削減になります(当サイトの試算)。 - リフレーミングの補助・言語化機能:
汎用的なAIは「多動性→探求心やエネルギー」「感情的→表出が豊か」といった肯定的な言い換え(リフレーミング)のパターンを多数保持しており、教員の思考を補助します。 - 組織的な支援ナレッジの拡大:
AIから提示される複数の支援アイデアを起点に検討を行うことで、教員個人が有する経験値を超えた支援の選択肢を獲得するきっかけとなります。
まとめ
AIを「作成の主体」とするのではなく、「言語化作業を代替・補助するツール」として活用することは、教員の方々の専門性を担保しつつ、事務的負担を減らす現実的な手段です。
このような人的リソースの再配置を通じて、教員が児童生徒への直接的な関わりや観察により多くの時間を充てられる環境を整備することが重要です。
ヒント
管理者、管理職、自治体の情報担当者の皆様へ
自治体としての「生成AI利用ガイドライン」を策定・運用するにあたり、単に利用を制限するのではなく、「個人情報の入力禁止」等の適切なガバナンス要件(※3)を遵守した上で、本稿で示したような「定型業務におけるドラフト作成利用」を推奨する旨を明文化することが、実効性のある業務効率化に直結します。
注釈・出典
※1 文部科学省等による特別支援教員に対する業務実態調査を踏まえ推計
※2 個人情報保護委員会および文部科学省の生成AI利用ガイドラインに基づく
※3 自治体共通のAI利用ポリシー・セキュリティ基準
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